はじめに
筋肉少女帯の大槻ケンヂ氏が執筆した自伝的小説『グミチョコレートパイン』。特に「グミ編」から「チョコ編」前半にかけては、著者自身の体験を色濃く反映していると言われています。これが、前編通して衝撃的で……。今回は、その「グミ編」を読んだ感想をまとめます。
1.開幕からオ〇ニー!?
物語は、主人公である大橋賢三の自慰行為の描写から始まります。
「創作は作者の自慰行為だ」とよく言われますが、この小説はまさに文字通りの“自慰小説”。けれど読み進めると、それはただの下品さではなく、主人公の葛藤を象徴する装置であることに気づかされます。
2.才能と自己愛、そして焦燥感
賢三は「自分は周囲とは違うはずだ」と信じ、いつか才能が花開くと夢想します。しかし小説や映画鑑賞から膨大な知識を得たとしても、結局何をすればよいのか分からない。周囲と違うことを証明したいのにその方法が分からないというもどかしさが延々と描かれます。
クラスのアイドル的存在の美少女、山口美甘子と映画の趣味が一致するというラブコメ的な展開もありますが、結局は自己愛と焦燥感が全てを覆い尽くします。
3.バンド結成と空回り
賢三と仲間は自分たちの特別さを証明するためにバンドを組みます。
しかし明確な目標はなく、才能を発揮する術もない。そうしている間に美甘子は女優デビューを果たし、主人公にとってさらに遠い存在になっていく。ここに「何者にもなれない甘分」への痛烈な苦しみがにじみ出ます。
4.創作を志す者への共感
カルト映画や小説を吸収して「自分は周囲と違う」と証明しようとする賢三の姿は、創作活動に携わる人なら共感必至でしょう。
僕自身もライトノベルを研究し、書き続けているものの受賞できず、「結局何者にもなれていない」という無力感を抱えています。その意味で、この作品は痛いほど心に刺さりました。
5.ギャグ調でありながら本質的
本作は全体を通してギャグタッチで軽妙に描かれています。しかしその裏には、「特別さを証明したい」という切実な叫びが潜んでいます。
笑いながら読んでいたはずが、気づけば胸にナイフのように突き刺さってくる。そんな体験ができるのが『グミチョコレートパイン』の魅力だと思います。
まとめ
『グミチョコレートパイン(グミ編)』は、単なる青春小説でも自慰的な小説でもありません。(いや、自慰メインの小説という点は否定できないけれども……。)
「何者にもなれない自分」と向き合いながら、それでも生きていくしかない人間の姿を描いた物語です。創作に悩む人、自分の特別さを信じたい人には、間違いなく突き刺さる一冊でしょう。
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